担当教科について

銀河系を意識する

理科(地学) / 山田 直樹

Q1 担当教科に興味を持ったきっかけを教えてください。

一番初めのきっかけは、小学校5年生のときの担任の先生が、宇宙の話をよくしてくれたことでしょうか。スケールの大きな話ばかりで、その不思議さに好奇心を掻き立てられ、いつも興味深く聞き入っていました。それで、地元にゆかりのある宇宙飛行士の毛利衛さんの本を読んだりして、小学校のときには宇宙飛行士に対するあこがれも持っていましたね。

その小学校の先生は、地学的な観点からも非常におもしろい、宮沢賢治のグスコーブドリの伝記を読み聞かせてくれたりもしました(私がこの学校に入って初めて作った入試問題は、この話を題材としました)。修学旅行では、現在世界ジオパークにも認定されている洞爺湖・有珠山に行き、火山の迫力にも刺激を受けました。

とはいえ、与えられたものを面白がるだけで、自分から何かを始めてみようとしたり、何かを獲得しにいったりする姿勢を持てなかったのが残念なところです。

その後、高校の科目選択のときに、そのような興味もあって地学を履修し、授業の中で改めて地学の面白味を感じるようになりました。文系でしたが、地学だけは出来が良かったですね。

 

Q2 担当教科の魅力を教えてください。

地学というと、「一番マイナーな理科」という印象を持つ人や、ひょっとすると、「え、社会科じゃないの?」という人もいるかもしれません。確かに、理系の地学が大学入試でほとんど使われていない状況では、それもやむを得ないのかもしれません。でも、本当はもっと広く学ばれるべき大切な科目なのだと思っています。

地学は、地球の固体圏、流体圏、その間の生命圏、さらには宇宙も含めて、とても幅広い領域を対象にする学問です。天文学者のカール・セーガンは「私たちは星の子である」という言葉を残しました。実際に私たちの体を構成する元素はいつかどこかの恒星内で核融合反応によってつくられたものであり、その意味では、少し大げさかもしれませんが、私たちは宇宙創成138億年の歴史のつながりの中で、その一場面を橋渡しする存在なのだと思っています。だからこそ、宇宙の中の地球、生命の歴史の中の人間存在を位置づけ、地球とは、人間とはどんな存在なのかを問う地学は、人生を豊かにするうえでも必要なものだと感じています。138億年前から現在まで、原子から宇宙の果てまでという、時間的、空間的に幅広いスケールを対象に、しかも、非常に多様な手法を用いるのが地学であり、そのようなものの見方や考え方を与えてくれるのが魅力の一つです。

また、21世紀に生きる我々は、地学的現象に依って生活をし、地学的現象の問題に直面しています。文明生活を支える石油・天然ガスや金属などのさまざまな資源、あるいは大気中の酸素さえ、過去の生物のはたらきや火成活動、風化・堆積作用などで蓄積されてきたものです。今後、奪い合いが予想される水資源のことを考えていくためには、地球規模での水循環をシステム的にとらえる見方も必要になるでしょう。われわれがこの世界でどのように生き、今後どう生きていけるのかを考えるには、資源・エネルギー問題の観点からも地学が必要なはずです。

さらに、地球温暖化に代表される環境問題や、地震・火山をはじめとする自然災害も重大な関心事です。特に日本は4つのプレートの境界となっており、房総沖には世界で唯一の海溝三重点もあります。日本は多くの地学的現象が起こる地理的環境下に置かれており、その恩恵と、危険性を十分に理解し、日頃から意識する必要があるでしょう。数多の例を挙げるまでもなく、地震災害、火山災害、気象災害、土砂災害など、われわれは常に災害と隣り合わせで生活しています。近い将来に東南海地震が起こると取りざたされていますが、変動帯にある日本に住む限り、そのような問題は決して避けて通れないものです。これらを科学的に読み解き、新しく生じてくる様々な問題を理解する素養を身に着け、対応に役立てていくことは地学を学ぶ大きな意義の1つであり、魅力でもあるのだと思います。

どんなにアスファルトと高層ビルに囲まれた生活を送っていようと、私たちは自然の一部であり、自然の中に生きています。普段は忘れていても、自然災害がおこったときにはそのことを否応なく突きつけられるわけです。ときには石を手に取り、地形に目をやり、雲を眺め、星空を見上げ、自然を意識してみる必要があるのでしょう。宮澤賢治の『農民芸術概論綱要』の序論には、「正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである」という一節があります。解釈のほどはともかく、そんな視座に立たせてくれるのが地学なのかもしれません。


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理科(地学) / 山田 直樹