2014 海城OBによる生物科学講演会

2014.03.31

  • 講習

今回で4回目となった「海城OBによる生物科学講演会」。今年も3月19日(終業式の日)の午後に開催されました。

【プログラム】
12 : 30 開会
12 : 40 平井 惇也 君(05年卒:東京大学大学院 農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻 浮遊生物学分野 博士課程3年)
「最新の遺伝子解析技術が明らかにする海洋性カイアシ類の多様性」
13 : 15 冨澤 輝樹 君(08年卒:東京海洋大学 海洋科学技術研究科 海洋生命科学専攻 先端魚類防疫学研究室 修士課程2年)
「魚類の性と繁殖の多様性〜メスだけで繁殖する魚の不思議〜」
(10分間休憩)
14 : 00 梅原 智輝 君(10年卒:東京大学 薬学系研究科 遺伝学教室 学士4年)
「ドジ(Dogi)な神経?〜ショウジョウバエ新規遺伝子dogiの機能はなんだろう〜」
14 : 35 総合質疑・閉会


冨澤君の講演。魚類の性転換の不思議に、生徒から質問が相次ぎました。

今年は特に中学生が多く参加したのですが、その中学生たちからも物怖じしない鋭い質問が相次ぎました。講演者3名は皆、生徒達の質問のレベルの高さ、関心の強さに驚いたとのこと。「海城の未来は明るいですね」との言葉をいただきました。

毎年3月に開催している本講演会も、はや4回目。これまでの講演者のうち、4名が博士号を取得しています。その後、ポスドク(博士研究員)或いは企業の研究者の道へ進みます。他の方々も水産庁、動物病院等に進路を決めたり、博士課程、修士課程で活躍したりしています。
今回の講演者の1人からこんな感想をいただきました。「今回の講演で少しでも生物学に興味をもってくれたら嬉しい。と同時に、楽しいことばかりではないということもきちんと伝わっていてほしい。」
確かに大学院やポスドクの日常は決して楽なものではありません。しかし、「実際は役に立つかわからないようなことに全力で取り組めるのは、すごくおもしろそう(中学生の感想)」という気持ちを持つ生徒を大事にしたいものだと思います。(本講演会担当)


平井君がもってきた航海での貴重なサンプル。皆興味津々。


梅原君の講演。分子生物学的な難しい内容でしたが、いろいろな比喩を用いながらわかりやすく説明してくれました。


最後に記念撮影。

以下、講演要旨です。要旨を読むだけでもワクワクする方が多いのではないでしょうか。

◎平井 惇也 君「最新の遺伝子解析技術が明らかにする海洋性カイアシ類の多様性」
皆さんはカイアシ類という生き物をご存知でしょうか?カイアシ類はエビやカニの仲間である甲殻類に含まれ、その多くは水中を漂うプランクトンとして生活をする1〜5ミリほどの小さな生き物です。カイアシ類は海の中で非常に量が多く、魚の重要な餌となることから「海のお米」などとも呼ばれています。また、種類も非常に多く、現在までに13,000種類以上が報告されています。
今回ご紹介する研究では、種類が多く分類の難しいカイアシ類の多様性を、最新の遺伝子解析技術を使うことで明らかにしています。遺伝子解析の技術の発達は目覚ましく、海洋の生態系の理解においても非常に強力な手法です。また、研究のためのカイアシ類は、調査船に乗り太平洋の様々な場所で採集を行います。そこで、講演では研究の内容はもちろん、船に乗った海洋調査の様子についても紹介します。本講演を通して少しでも海洋生物研究の魅力を感じていただければ幸いです。

◎冨澤 輝樹 君「魚類の性と繁殖の多様性〜メスだけで繁殖する魚の不思議〜」
皆さんは生物の繁殖についてどれくらい知っているでしょうか?
我々も含めた多くの生物はオスとメスで繁殖を行います。また、生まれた時の性が変わることはありません。しかし、魚類の繁殖は必ずしもそうではありません。性が変わる、メスだけで繁殖するといった様々な繁殖様式を持ちます。また、我々は46本の染色体をもちますが、200本以上の染色体をもつ魚類も存在します。前半では、驚くべき魚類の性と繁殖の多様性について説明します。
後半では、私が卒業論文で取り組んだメスだけで繁殖する身近な魚の研究について取り上げます。この魚は他の種類の魚の精子を利用して発生し、その魚のメスだけが生まれます。しかし、明らかにオス親との雑種と思われる個体が出現し、これを解析しました。身近な生き物にもある不思議をどう解明するかを取り上げます。
かなりマニアックな内容ですが、奥深い魚類の性と繁殖について紹介します。どうぞ、肩の力を抜いて参加してください。

◎梅原 智輝 君「ドジ(Dogi)な神経?〜ショウジョウバエ新規遺伝子dogiの機能はなんだろう〜」
ショウジョウバエの嗅覚神経を見ていると、ある時神経が変な所に伸びて行ってしまうハエが発見された。このハエではある遺伝子がダメになっていた。この遺伝子をdogi(ドジ)と命名した。
Dogi は神経が伸びる時だけでなく、伸びた後に神経と神経のつなぎ目「シナプス」を作る時期にもいたことから、シナプス形成にDogiが関わっているのか調べることにした。
シナプスを見るのに適した場所として、ハエの神経と筋肉の境目「神経筋接合部(NMJ)」が挙げられる。
ここでシナプスを見てみると、なんとガンに関わる遺伝子がDogiと一緒に働いているらしいということがわかった!
神経でガンとはいったいどういうことなのだろうか?
そしてシナプス形成におけるDogiの機能とは…?
Dogiな神経はいったいどうなってしまうのか、実際の写真を見ながら一緒に見ていきましょう!!