• 総合講座「職人の世界から―社会的な問題関心を拓く」 第2回 蕎麦「山都」店長 渡邊太一氏をお迎えして

総合講座「職人の世界から―社会的な問題関心を拓く」 第2回 蕎麦「山都」店長 渡邊太一氏をお迎えして

2018.03.01

  • 講習

今回の「中学総合講座」は、「職人の世界」をテーマにしました。この時間は、様々な分野の「職人」をゲストとしてお呼びし、彼らの「ライフ・ヒストリ―」を舞台回しにしながら、修業時代の苦労や生きがい、そしてこれまでの生き方として大切にしていることや自分の仕事に込めている思いなどを自由に語っていただき、それを生きた素材にして中学生たちと意見交流し合う時間です。
第2回目は「飲食店での出会いと集いの中で考えたこと―心地よくなるお店の空間とは」というタイトルで、代々木上原にある蕎麦「山都」の店長、渡邉太一氏にお越しいただきました。
お話は、渡邊さんが飲食サービス業に入るまでの経緯から口火が切られました。新潟県内の小中高と野球づけの日々。高校1年の時には念願がかなって甲子園に出場した渡邊さんは、大学進学のために上京。同時に音楽活動を始め、卒業から10年間はライブツアーを中心に、飲食業、配送業などのバイト生活をしながら、精力的に活動しました。結婚を機に、新たなステージとして正式に飲食業へと転進。そのきっかけは、飲食業のバイトの中で、自分が人と話をすることが好きだということとに改めて目覚めたこと、そして、美味しい物を食べているお客さんの顔がとても素敵だと思えたことが大きかったということでした。
その上で、今では1ヶ月に来店する1800名のお客さんを相手にするとともに、店長という組織のリーダーとして何を大切にしていかなければならないかという点について、日頃から考えていることや実践していることを、具体的に話していただきました。
中でも特に印象的だったのは、お店の側では、お客さんについては何もわからないところから始まるということ。だからその顔つきや雰囲気を、しっかり感じられるアンテナの感度を持つこと。感じたらその内容を自分だけの知識にしないで、お店の仲間に伝えること。物事の感じ方が1つではないわけだから、自分の価値観を決めつけずに、なるべく自由にしておくこと。そのためには、常に客観的に自分を見つめる目をもてること。日々の仕事の中で当然上手くいかないことはあるけれど、そのことを責めたり、嘆くだけでなく、何が問題なのか、それを改善するための提案をお互いに形にして出し合えること。その際、それがどんな案であっても絶対に笑ったり、否定したりせずに、まずは「なるほど」と一度は受け取り咀嚼して、その上で率直に意見を言い合える場の雰囲気を作ること。どんなにつらくても仕事への責任を進んで担うこと。責任を持つと簡単には投げ出せなくなり、それは、この仕事をより好きになれる大きな条件であり、しかもさらに良い仕事をしたいと思える『こだわり』が生まれる。この『こだわり』の意識は、どんな仕事でもとても大切なものではないかと、熱く語りました。
当日は中1から中3まで20名ほどの生徒たちが熱心にメモを取りながら聴講し、その後の質疑応答や感想の発表も活発に行われました。渡邊さんの「後輩にどういうステップで何を教えるか」、「仕事でうまくいかない時にチームとしてどう解決していくか」、「どんな単純な仕事でも<作業>ではなく『飲食クリエイティブ』の姿勢を」といった話に興味を持った生徒が多く見られました。
渡邊さんのお話は、飲食の世界だけでなく、第一線で活躍する職業人の重い言葉として刺激に満ち、生徒たちは大変有意義な時間を過ごすことができたと思います。
以下は生徒の感想です。
A君「渡邊さんの話の中で、特に心に残ったのは、人との関わりの大切さということだ。心地よいお店の空間は1人では作れないということを何度も言っていた。他の人に支えられることでお客さんを喜ばせることができることは、文化祭での経験で私も強く感じたことだった。そして、人との関わりを大切にするために、渡邊さんは次のような事を語ってくれた。まず、お客さんの顔つきや雰囲気から『感じること』。感じたら、その内容を他の仲間にきちんと『伝えること』。また、常に『自分を客観的に見る』ことによって、物事の感じ方は人様々だということを認めあい、相手の気持ちも考えられることが大切だということ。そして、もしその場で何らかの問題が起こったら、非難したり、嘆いたりするだけでなく、こうした方がいいという「提案」を「形」にしてみんなで伝え合い、それがどんな提案であろうとも絶対に『笑わずに受け止め』、その場の解決につなげていくという方法。自分が困ったときに助けてもらえるような、みんなが心地よくなる場を築くことにチャレンジしていきたい」(中1)
B君「飲食クリエイティブ ― この言葉を初めて聞いたが、渡邊さんの座右の銘なのだと思いました。幼いときから蕎麦1本で努力してきた職人が多い中で、野球に、音楽にと違う畑を進み、飲食サービスの世界に挑戦する姿勢は、私たちも多くの失敗と経験を積み重ねることが、自分の貴重な土台になると思わせるだけの熱意に満ちています。私は、これまでどちらかというと勉強一辺倒の生活を送ってきました。もちろん自分よりも勉強ができる人はたくさんいます。でも、だからといって、他の分野で活躍できる自信もありません。そう思うと、渡邊さんの常に新しい世界を探そうとする姿がまぶしく見えてきます。『決してあきらめない』『自分で感じて、自分で伝える』『責任をもつことの大切さ』『提案と解決方法』といった1つ1つの言葉は、どれもどこかで聞いたことのあるものですが、これまでの渡邊さんの人生に裏打ちされ、説得力あるものにしています。自分の人生の指針は、この講座が終わった後でも見つけることはできないと思います。もちろんそんなに簡単に見つけられるなら、人生の価値もそう大きなものにはならないのでしょう。多くの方々の人生観を聞くことが、きっと将来の自分を支え、活かすことができるのだと納得しています」(中2)DSC03441111