古典芸能部創設者卒業記念企画「桂小金治師匠ご講演」
2012.03.12
創設5年目の古典芸能部。その創設者は二人の現高3で、このたび卒業となります。
それに伴い、彼らへの報恩記念が企画されました。今日はその第一弾をご報告いたします。
かつて,あるときは“怒りの小金治”,またあるときは“泣きの小金治”の異名で,映画・テレビと大活躍をされた落語家の桂小金治師匠が11日(日)に来校され,本校古典芸能部員へご講演くださいました(写真1)。
大正15年のお生まれの師匠は現在86歳。昭和22年に日本芸術協会(桂歌丸師匠を会長とする現在の落語芸術協会の前身)の桂小文治師匠に入門。持ち前の素質とご努力により,将来を大いに嘱望されました。この頃のご活躍ぶりは,劇作家の大西信行氏の書かれた「落語無頼語録」などに見ることができます。
昭和27年、松竹映画の川島雄三監督に請われて映画界入り。以降,日本映画史上に燦然と輝く名作である野村芳太郎監督の「拝啓天皇陛下様」をはじめとして,実に120作余の映画出演を数える小金治師匠。映画出演を通じて育まれた名優との友情,とりわけ石原裕次郎氏とは朋友の間柄でした。
その後は、テレビ界でもご活躍。NHKでの「ポンポン大将」でのご好演を懐かしまれる方も少なくないでしょう。また、NET(現テレビ朝日)の「アフタヌーンショー」ならびにNTVの「それは秘密です」での名司会ではお茶の間からの圧倒的な支持と人気を得られました。殊に、後者での名セリフ「雨やんで人傘を忘る。とかく人間は時の流れに過ぎし日のことを忘れがちなものです」は今なお、視聴者の耳に新しいことと思われます。このセリフは師匠ご自作とのことです。
その小金治師匠のご来校がこの日、実現いたしました。これは、昨夏、当部が「ムーランルージュ新宿座」の調査、研究をした際、知遇を得ることの出来た作家の本庄慧一郎先生のご紹介によるものです。
〈写真1—小金治師匠—〉
本庄先生に開会のご挨拶をいただいた後、小金治師匠の溌剌たるご挨拶により、会はスタート。途中、師匠の往年の高座を鑑賞。ハッカ飴の如きさわやかな口跡による本格的な江戸落語に接した部員達。なるほど、当時、大いに嘱望されたとうなずけると同時に、嗚呼、このような素晴らしい噺家さんを奪った映画界が恨めしい…という気にさせられました。
また、部員の披露した「寿限無」をほめてくださり、また、なんと、絶品と評判の「大工調べ」の棟梁の啖呵もご披露くださり、まさに耳福とはこのこと、と感じ入りました。
そして洒落だくさんの中にも時にしんみりとお話される数々の含蓄あるお話。
とりわけ、多くの部員の心の琴線に触れたのは次のお話でした。
小学生の小金治少年。ハモニカが欲しくて父上にねだるも、「音の出るものが好きならこれを鳴らしな」と一枚の葉を取り出して、それは見事な草笛の音色を聞かせてくれた。自分も見よう見まねにやってみるも、全くできず、三日であきらめてしまった。
何日か経った後、「草笛の稽古はしないのか」の父上に、「あぁ、あれなら三日でやめたよ」。そのせつな、「そういうのを三日坊主ってんだ。俺ができておまえができないはずがないだろう。えっ、そうだろう。悔しくないのか。俺は吹ける。でも、おまえは吹けない。おまえは俺に負けたんだ。一念発起は誰でもするよ。実行、努力もみんなする。でもな、そこでやめちゃあだめなんだぞ。一歩抜きん出るためにはな、努力の上に辛抱という棒を立てるんだよ。その棒に花が咲くんだぞ」と喝を入れました。負けじ魂に火がついた小金治少年。努力鍛錬の末、ようやく、メロディーとなったとき、「父ちゃん、できるようになったよ」と喜び勇んで報告すると、「努力の上の立てた辛抱に花が咲いたてぇわけだな」と言ってくれたそうです。「ああ、よかった」と喜びとともに寝た翌日、枕元に小さい箱が置いてある。何かと思って開けてみると、なんと、あの欲しかったハモニカが出てきた。びっくりした少年は母上に、「これを見てよ。父ちゃん、きっと俺が草笛を吹けたから昨日、ご褒美に買ってきてくれたんだね」と伝えるも、母上曰く、「そのハモニカはね、3日も前に買ってあったんだよ。お父ちゃんが言っていたよ。あいつはきっと草笛が吹けるようになるから買ってきたんだってね」
それを聞いた小金治少年の目から大粒の涙が流れ落ちた・・・というものです。
このお話に、古典芸能部の創設者の一人である高校3年生の平山創君は、「親子の情。子に対する親の信頼。感銘を受けました。気の早い話ですが、自分が親になった際の、父親としての在り方を学んだ気がします。師匠が体験をもって語られたように、自らが決断したことは未来を信じ、たゆまぬ努力をもってやり遂げたいと思います」との感想を寄せてくれました。
数々の泣き笑いのお話の最後に、師匠自らの草笛での「蛍の光」で講演は終了いたしました。
終了後、部員たちとご歓談を頂き(写真2。草笛を手にした部員とともに)、記念撮影(写真3。小金治師匠の隣が作家の本庄慧一郎先生)にも応じてくださいました。
帰途をご一緒した顧問は、余話をこれまた沢山お伺いすることができ、さながら講演第二部といった趣となり、役得とはまさにこのこと、と一人ごちて帰途につきました。
小金治師匠、ならびに本庄先生ご夫妻、そしてNTVの青木様、本日は誠にありがとうございました。
(古典芸能部顧問)
〈写真2—草笛を手にする部員と小金治師匠—〉
〈写真3—集合写真—〉