生物部 「情報処理学会で優秀賞を受賞!」
2026.03.12
3月7日(土)愛媛県松山市、松山大学で開催された第88回情報処理学会に参加をしてきました。生物部から走出君がこの学会で実施され第8回中高生情報学コンテストに応募しました。関東ブロックの予選を突破して、現地での発表をいただきました。
その結果は、優秀賞。最優秀賞に次ぐ高評価をいただくことができました。情報学で活躍する研究者の皆様から多くの刺激をもらうことができました。走出君は次なる学会発表に向けて始動しています!今後の活躍に期待です!!
発表タイトル:HDT-AD: 超高次元変換による頑健かつ適応的な時系列異常検知
発表者:走出慧太
走出君のコメント
この度、情報処理学会 第88回全国大会に併催された「第8回中高生情報学研究コンテスト」において、「HDT-AD: 超高次元変換による頑健かつ適応的な時系列異常検知」という私の研究ポスターが優秀賞に選ばれましたことをご報告いたします。
本研究はタイトルの通り時系列異常検知をテーマとして取り扱っており、センサーデータや信号データなどを入力変数として受けとり異常スコアを出力とする手法を独自の方法で提案します。基盤となる技術として Hyperdimensional Computing (HDC) というものがあり、これは入力データのスカラー値をとある方法で変換し、10^3~10^4 次元程度の高次元のベクトルを表現形式として用いる手法で、すなわち約1万次元という「超高次元空間」に情報を分散させて表現し、計算を行うという少し変わったアプローチです。
時系列異常検知とは、たとえば工場の製造ラインの機械や、身の回りの電子機器に取り付けられたセンサーから絶え間なく送られてくる温度や振動などのデータをリアルタイムで監視し、「いつもと違う」故障の兆候をいち早く見つけ出す技術です。しかし、これを現代のAI技術で実現しようとすると、大きく三つの壁が立ちはだかります。
第一に、計算資源の壁です。近年注目されている深層学習などのAIは非常に高性能ですが、膨大な計算能力とメモリを必要とします。現場の機械のそばに置かれるような小さなコンピューターでは、重すぎて動かすことができません。
第二に、ノイズの壁です。実際の現場のセンサーデータには、通信の乱れによるデータの欠落や、一瞬だけ生じる異常値などのノイズがどうしても混ざってしまいます。では、ノイズを除去すればいいだけかというと、そう単純な話ではありません。例えばグラフとして表示したときに鋸型の振幅が存在したとして、それがノイズなのか機器の不良などを含む異常なのかといった判断をする必要があり、精度とノイズ耐性の間にトレードオフの関係が生じることが多いです。
第三に、環境変化の壁です。機械は長く使っていると、部品の摩耗などで少しずつ普段の振動音などが変わっていきます。あるいは、季節などに依存する分布の変化が生じる場合があります。従来の手法の一部は一度「これが正常だ」と覚えると、こうした緩やかな変化に追いつけず、いつしか正常な動きを異常と誤判断するようになってしまいます。かといって、常に新しいデータに合わせて基準を更新し続けると、今度は本当の異常状態が長く続いたときに「この異常な状態が今の正常なのだ」と勘違いしてしまい、いざ元の正常に戻った後もずっと誤報を出し続けてしまう「適応崩壊」という致命的な弱点を抱えていました。
そこで私が着目したのが、先ほど触れたHyperdimensional Computing(HDC)という技術です。これは人間の脳の神経回路が情報を扱う仕組みにインスピレーションを得たもので、通常の数値を、あえて1万個の数値の集まりに変換して扱います。情報を広大な空間にパラパラと散りばめて記憶させることで、データの一部が欠けたりノイズが混ざったりしても、全体としての情報がほとんど壊れないという、驚くほどの強さを持っています。
私はこのHDCの基礎理論に加え、最新の数学的な枠組みを応用することで、先ほどの三つの壁をすべて同時に乗り越える「HDT-AD」という新しい手法を考案しました。
私の考案した手法には、大きく三つの強みがあります。一つ目は「究極の軽さ」です。過去のデータを大量に溜め込んで比較するのではなく、現在の正常な状態の代表となるたった一つの高次元ベクトルだけを保持し、新しくデータが来るたびに足し算や掛け算などの単純な計算で少しずつ更新していく方式をとりました。これにより、どれだけ長期間データを監視し続けても、AIが消費するメモリの量は常に一定(スマートフォンの写真1枚よりも少ない約1メガバイト程度)に保たれ、小さな現場の機器でも半永久的に動き続けることができます。
二つ目は「圧倒的なノイズ耐性」です。HDCが本来持っている情報の分散表現の力を最大限に引き出し、時間の順序関係を保ったまま空間に配置する工夫を施すことで、ノイズが多い過酷な環境下でも、従来の手法と比べて精度が落ちにくいことを実験で確認しました。
そして三つ目は「安全な適応力の実現」です。これが本研究における私自身の最も大きな独自の貢献だと考えています。先ほど述べたように、機械の経年劣化や分布自体の変化には自動で追従しつつ、長い異常状態に騙されてしまう「適応崩壊」を防ぐことは非常に困難でした。私は、データを更新する仕組みと、異常かどうかを判定する基準を更新する仕組みを分離し、どんな時でも必ず一定のルールで統計情報を更新し続けるという独自のアルゴリズムを設計しました。そして、この仕組みを使えば、どれほど長い異常が起きても適応崩壊を起こしにくく、正常な監視状態に復帰しやすいことを、現在査読中の論文において数学的に証明し、実際のデータでもその通りに機能することを実証しました。
なお、「適応崩壊」やノイズに対する耐性といった課題はAI分野の根本的な未解決問題としてある、「フレーム問題」に強く関係しており、根本的な解決とはならないものの、大幅にそのリスクを低下、無視できるレベルまで抑制できたことを報告いたします。
研究では、合計59種類もの多様な実社会のデータや人工データを用いてテストを行いました。その結果、計算の重い最新の手法に頼らなくても、わずかなメモリ消費で、ノイズに強く、環境変化にも安全に適応できることが確認されました。今回のコンテストでは、こうした問題提起からアルゴリズムの設計、そして多数のデータを用いた実証実験までを行い、「軽さ」「ノイズへの強さ」「安全な適応力」という三つの要素を追い求めた本研究が、ありがたいことに高く評価されました。HDC は国内ではまだ研究例の少ない手法ですが、私の追い求めた 要素が評価され、優秀賞をいただけたことを誇りに思います。
本手法の研究は今回の学会発表および現在査読中の論文をもって一区切りとし、今後は別テーマで実世界のデータや自然科学系の理論を基礎に置いた分析寄りの応用研究を行いたいと考えております。
最後になりますが、生物部に所属しながらもコンピューターサイエンスなどの分野の研究に没頭する私を日頃から温かく見守り、大会への引率までしてくださる顧問の関口先生に、この場を借りて深く感謝申し上げます。今回の受賞を励みに、決して慢心することなく、これからも研究や技術の研鑽に励んでまいります。

多くの方に発表を見ていただきました。

活発な議論をしていました。

優秀賞の賞状をもらいました!

松大みきゃんと記念撮影!